<水銀>包括規制へ 国連条約の逆援助原案判明…
国境を越えて広がる水銀汚染と健康被害を防ぐため、国連環境計画(UNEP)が13年の制定を目指す「水銀条約」の逆援助原案が判明した。製品への使用 や大気中への排出の削減を義務づけているほか、輸出については用途の限定と事前手続きの強化を求めている。制定されれば、初の包括的な水銀規制となる。日 本で水銀は採掘されていないが、回収した水銀を年100トン以上輸出しており、対応が迫られそうだ。24日に千葉市で始まる政府間交渉委員会に提案され る。
水銀は電池などに使われるほか、途上国では金採掘に使われている。金属の原料となる鉱石や石炭などに水銀が含まれるため、銅や亜鉛などの金属精錬や火力発電の燃焼過程でも排出される。
原案では、電池、計測器、蛍光灯などの照明、スイッチ、虫歯治療材の主要製品5種を列挙し、製造、販売、流通、輸出を原則禁止し、締約国が必要と登録した 場合にのみ認める。輸出する場合でも、輸出国へ通知書の提出を義務づけ、輸入の同意を取る。健康被害の恐れのある金採掘現場での使用を目的とした輸出入は 明確に禁止する。
供給削減対策では、鉱山から採掘した水銀や水銀化合物の輸出を認めず、一定期間後に鉱山を閉鎖する。大気への排 出削減対策として、石炭火力発電などでは最新技術で削減対策を取るよう義務づける。排出の多い国には、削減に向けた行動計画の策定を求める。また、途上国 への技術支援や資金援助に取り組む。これらの内容がどこまで強制力を持つのかは今後の
日本では74年に鉱山が閉山さ れ、代替技術の開発が進み、水銀の需要は64年の約2500トンをピークに、05年には約10トンに減った。一方で、企業は、金属精錬過程などで排出され る水銀を回収。09年に約142トンを輸出した。環境NGOは「健康被害を引き起こしている恐れがある」と指摘している。
日本政府は有機水銀が原因の水俣病を教訓に、条約を「水俣条約」と名付けるよう提案している。
◇水銀条約原案の骨子
▽目的 水銀と水銀化合物の人為的排出から健康と環境を守る。
▽供給削減 鉱山から採掘した水銀を禁輸する。
▽保管 新たに策定する方針に基づき、適正管理する。
▽貿易 輸出通知書の提出と、輸入同意書を取り、認められた場合のみ輸出できる。
▽水銀添加製品の使用 付属書で適用除外用途として登録しない限り、製造、流通を認めない。
▽大気への排出 最良技術の適用を義務づけ。年間排出量の多い国は削減目標と行動計画を策定する。
◇解説 水俣の教訓途上国に無償で逆援助
水銀の発生源は火力発電所や産業廃棄物施設など多様で、分解されず、地球規模で循環している。国連環境計画が示した水銀条約の原案は、水銀の供給と貿易▽製品への使用▽環境中への排出--の3方向からの規制で効果的な削減を狙っている。
背景には、途上国で健康被害の懸念が高まっていることがある。先進国では蛍光灯や電池などの製品で代替開発が進み使用量は減少している。しかし、アフリカ などで貧困者の違法労働の場となっている金鉱採掘に水銀が使われ、河川や大気に放出されている。経済成長が著しい中国などアジアでは、火力発電所や化学工 場からの排出が急増している。
国連環境計画は02年に「世界水銀アセスメント」を公表し、各国に取り組み強化を訴えたが、米国や中国、インドが自主規制を主張して停滞。米オバマ政権の方向転換で、10年に条約交渉が始まった。
一方、日本の輸出規制への対応は、すでに禁輸を打ち出した欧米に比べ遅れている。また、長期的に安全に保管するのに必要な処理技術の開発、保管場所の選定などの課題も残されている。
途上国で水銀が利用される背景には貧困問題があり、規制強化だけでは解決されない。また、水銀の使用量や環境中への放出についてのデータは乏しく、削減に 向けては途上国への技術的、金銭的支援も鍵となる。水俣条約と名付けるよう提案している日本は、水俣病での苦い経験を他国に伝えていくことも期待される。 実効性のある条約にできるか、注目される。
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